2020年1月10日 日記

 

銀座で泣いていた。

別に場所はどうだって良いのだが、“銀座”と明記した方が街並みの煌びやかさと惨めな顔をする自分との対比が生まれるので面白い。イルミネーションは12月で終わりではないのか、並木には金色の電飾が巻かれている。私は昨今もてはやされている青の電飾がどうも寒々しくて嫌いなので金色であることは評価する。そういえば表参道の並木金色の電飾なので、金持ちが闊歩する道はそうあるべきと決まっているのだろうか。散財を促す何かしらの心理効果が働くのだろうか。知らない、多分そんなことはない。私はどうでも良いことばかり考えて、大事なことを後回しにする。でも金色の電飾は明るくて好きだ。

 


ハンカチを出すのもティッシュを出すのも億劫なので、みっともないが適当に袖で拭う。この街で誰も私なんかに注目しているはずもないのに、泣いてるとは思われたくないので「目が痒いんですよ」というフリをする。しばらく歩き、そろそろ目元が乾いたかな、という頃合いに銀座の松坂屋に入ってそろそろなくなりそうな化粧下地を見に化粧品コーナーへ向かう。これまではPrimavistaの皮脂崩れ防止下地(鼻に油田を構えるアブラギッシュノーズの味方)を愛用していたが、乾燥が気になるのともう少しカバー力が欲しいのとで別ブランドへの乗り換えを検討している。正直コスメに明るくはないので、フロアの隅で「デパコス 化粧下地 オススメ」で検索した後(ダサいが仕方ない)、出てきたブランドを片っ端から回りサンプルをいただく。明日から毎日違う顔になれると思うと、さっきまでの惨めな気持ちが少しだけ和らぎ、胸が躍ってきた。もちろん下地を変えるだけで顔が劇的に変わるわけがないのは分かってる。これだと思える下地に出会えるといい。

 


松坂屋を後にし家路に着く。ここのところ野菜が足りていない気がしてきたので、豚汁でも作って効率よく野菜を摂取しようと思い立った。“豚汁”は冬の季語だ。次の春が来るまであと何回「今日は豚汁を作ろう」と思い立つのだろう。意外と今日で最後かもしれない。そう考えながら、転居してまだ一度しか訪れたことのないスーパーに寄る。スーパーにいて食材の山を見ていると余計なことを考えずに済むので、上京してからずっと憩いの場だ。自炊は好きなので、野菜の相場くらいはだいたい覚えた。以前住んでいた場所の近所のスーパーとさして変わらない価格設定に安堵する。強いて言えば、常備品であるレンコンの水煮は少し高かったかも。

 


謎にバカでかい人参。謎にバカでかいトマト。謎にバカでかいじゃがいもを手に取り眺める。バカでかいものを見ていると人間は思考停止に陥るらしい(たぶん)ので、バカでかいものは良い。二度目の来店にして、このスーパーを心の中で「バカでかの宝庫」と名付ける。日常において意味のない名付けは重要だ。なんでもない日常がちょっと面白くなる。

 


「バカでかの宝庫」でバカでか野菜を見ていたら、数時間前まで泣いていたことをすっかり忘れていた。帰宅後すぐさまTwitter片手にギターを弾いて歌って寝てしまったので、食材たちには申し訳ないがまだ豚汁を作ってない。数時間後の私が何とかしてくれるだろうと思う。もう朝だ。6時はまだ暗い。早く日が長くなってほしい。日記でした。