夜に聞こえる車の音

 

 

2020年2月24日、午前3時15分

 

アルバイトの最後の出勤でもらった花束を全てバラし、天井に麻の紐を引っ張り全て干した。

 

エアコンの風がよく当たる位置、1週間もすればそこそこ乾いているだろう。明らかにドライフラワー向きでない、水を含んだ花はマグカップに水を張って挿した。大きい花なのでマグカップから盛大にはみ出ている。明日サイズに合った花瓶を買いに行く。紫色のヒヤシンスだ。色は、私をイメージしてオーダーしてくれたという。

 

花を干し終え、電気を消して布団に潜るとマンションの近くを通る首都高から大きなトラックが通る音がした。

 

 

祖父母の家を思い出した。

 

 

祖父母の家は、田んぼを隔てた先に大きな国道が通っていた。それは“祖父母の家の2階で寝ているときの音”、懐かしい音だった。

 

実家の隣の市にある祖父母の家に泊まる機会はそんなに多くはなく、その大体の日が寝付けなかった。たぶん、本気で羊を数えて眠ろうとしたのは祖父母の家が初めてだった。逆に目が冴えてしまって寝られなかった。

 

いつだったか、5歳くらいの時に祖母が私が泊まる用にシーツ、布団カバー、枕カバー、そして何故かゴミ箱カバーのセットを用意してくれた。白で、パステルカラーのハートが散りばめられている柄で、今の私でも可愛いと思える柄だった。“特別にされている”という感覚が、なんとも嬉しかった。その時の実家はまだアパートで、毎日布団で寝ていたのでベットで寝られることも嬉しかった。まるで外国のお姫さまみたいだ、とさえ思った。甘い夢のような記憶である。

 

 

 

祖父母はもうすぐ80代、次の免許更新で免許を返納するらしい。祖父母宅の街は死ぬほど田舎なわけではないが、それでも車がない生活など考えられない。車が運転できなくなった後の祖父母の生活はどうなるのだろう。考えると胸が苦しくなる。東京にいる私が出来ることはなんだろう。夜中はどうも考えすぎてしまう。

 

 

 

夜に聞こえる車の音は、甘い記憶と甘くはないこれからを交錯させながら、私を寝かさないでいる。